2015年6月26日金曜日

アステラス製薬が競争優位となるための知財戦略

日本の製薬業界で第2位のアステラス製薬についてdigって、考察を書いたのでメモとして残します。
製薬業界のお金の回り方を学習することができました。
なお、下記は授業レポートとして提出したものと同一です。

  • 本論
製薬企業であるアステラス製薬は、知財に関してクローズ戦略を用いている。自社で特許を取得した薬について独占的に販売することで研究開発費用を回収する。そのため、特許侵害が行われればクローズ戦略が成り立たなくなってしまうので、告訴するなど厳しく対応している[1]。主力商品である医薬品についてはパテントクリフを超えるとジェネリック医薬品が登場して大きく減収することとなってしまう。そこで、特にアステラス製薬では新薬開発およびその販売に重点を絞った経営を行っている[2]。アステラス製薬は2005年にヨーロッパへの販路を持っていて合成医薬に強い山之内製薬と、アメリカに販路を持ち発酵創薬に強い藤沢薬品工業とが合併してできた会社であるが、中企業であるためにジェネリック医薬品の販売などはやめ、現在はがん領域に絞った新薬開発を行っている[3]。しかし、新薬の開発はとても難しく、様々な大学や研究機関、特定技術を有する製薬ベンチャー企業と連携もしくは買収する必要がある。研究所や大学では新薬を開発して特許を取っても販路を持たず使い道がないので、企業と共同で創薬研究を行いたいというニーズが存在する。
 一般的な日本の製造業においてはオープン&クローズ戦略によって、自社技術が不可欠な分野についてオープンにしていき、発展途上国の企業がオープンな分野に参入するやクローズにしている技術と絡めた契約を結ぶことで比較優位なエコシステムが形成される[4]。しかし、医薬品はそのまま最終製品となるので製造業のようなエコシステムを作るのが難しいのが現状である。他方、研究開発の成果である特許が収入を支えているので、製薬分野はオープンイノベーションとの親和性が高いといえる。
 上記のような背景と、製薬業界の性質から、アステラス製薬の取りうる知的財産戦略は従来通り新薬の特許のみを用いたクローズ戦略となると考えられる。製薬会社が最も力を入れる部分である新薬の開発にあたっては、自社リソースのみを用いたのでは限界があるためオープンイノベーションを推進する必要がある。その取り組みとしてa3(エーキューブ)[5]という共同研究を募集するサイトを2011年から立ち上げている。
 オープンイノベーションを促進する方法として様々な方法が検討されているが、その中でもリサーチツール(RT)[6]を安く共有することが必要であると考えられる。RTとは、困難を極める創薬研究を支援するための様々な材料や手法のことを指しており、従来はRTの高額な対価請求により広くは使われていなかった。そこで、RTも活用してアステラス製薬が競争優位となる共同研究の契約を結ぶことを以下に検討する。まず、アステラス製薬と共同研究の契約を結んだ研究機関にアステラス製薬のRTを利用してもらい、その際に得られたノウハウやデータはアステラス製薬も得ることができるように契約を結ぶ。これによりノウハウやデータ自体はアステラス製薬内に蓄積されてゆく。共同研究においては別の共同研究にて蓄積されたデータを用いてアステラス製薬内で解析などを行うことで新薬開発の成功率を上げることが期待できる。研究機関にとってはアステラス製薬との共同研究で新薬発見の確率が高いことおよび研究費を提供してもらえることがメリットとなる。創薬
に関わる実験データを自社の競争優位性として蓄積しながら、複数の研究機関と連携を図ることが重要であると結論づけられる。
 この他に、オープンイノベーションだけでなく、生産能力と販路を持たない大学の研究室へライセンス料を支払う特許流通ビジネス[7]の活用も検討できる[8]が、会社の競争優位性にはあまり寄与しないと考えられるので、リソースの集中投下を行っているアステラス製薬では実施しないと予想される。


  • 参考文献
[1] 「相次ぐ特許侵害招くアステラス製薬の弱み」, 『集中CONFIDENTIAL』, 2009, http://medicalconfidential.
com/confidential/2009/11/post-33.html
[2] 「【企業特集】アステラス製薬「武田超え」の好業績でも研究部門削減を急ぐ危機感」, 『DIAMOND
online』, 2013, http://diamond.jp/articles/-/39500
[3] 「7期連続増配の公算大きいアステラス製薬の強みとは」, 『ZUU online』,
http://zuuonline.com/archives/14681/2
[4] K. Ogawa, 「東京大学知的資産経営研究講座」研究報告書, 145-189, 2015
[5] a3(a・cube), アステラス製薬 , http://www.astellas.com/jp/a-cube/about/
[6] 渡辺裕二, 特許研究, 32-40, 48, 2009
[7] 鳥居稔, 特許庁技術懇話会, 61-74, 254, 2009
[8] JPMA News Letter, 20-25, 136, 2010

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